時の螺旋の刹那 2-16
今回はセシリア視点です。短いです。
第十六話 ― 主 ―
暗いそこが私の居場所だった。何もない。それが、人が言う闇という概念であろうとなかろうと、私は別にどうでもよ
かったのかもしれない。幾年も、数えるのをあきらめた年月が過ぎて、私は光に出会う。その方はまだあどけない少女
だった。その方はただ私を自分の身内として迎えてくれた。
妹。私に家族と言う感覚はなく、ただ、名を呼ばれ、封印を解かれたその主に仕える。ただそれだけのことと思ってい
た。再び、瞼を開けた先には、あの方の笑顔があった。
まぶしかった。綺麗だった。美しかった。
私にはとてももったいないくらい。そう、あの方は、我が主のようにとてもお優しい方だった…。
「セシリア?」
名を呼ばれ、瞼を上げる。聴覚器官に響く水中で空気が爆ぜるような音。ガラス越しに、私を見上げる小さな少女。私
と同じ存在だが、違う少女。
「呼びましたか、祝福の風」
「あ、起きてたですかー? 身体の方に何か問題とかあるですかぁ?」
「いえ…」
不思議なものだ。水の中なのに、音がはっきりと聞こえ、こちらも声を発せられる。歳月はここまで進化させられるも
のかとつくづく思い、そしてやがてまた栄華を極めて滅びゆくものなのかとも思う。それをさせないための、しないた
めの機関かどうかは私は興味がない。
「ごめんなさいですぅー…刹那ちゃんに会わせてあげたいですけど…」
「刹那様に御迷惑がかからぬよう。疑いは晴らしておくべきです」
「疑いなんて…」
「事実、私…いえ、闇夜の覇書は……そういうものです」
「セシリア?」
生まれ間もないころ、私はあの方に仕えるためだけに、あの方を、民を導くための魔道書だった。闇の夜を生きる王た
るあの方を…守る、ために。ずきりと不意に頭が痛む。見られてか、祝福の風は心配そうにこちらを見上げていた。
ああ、刹那様も、あのようなお顔をしていらっしゃるのかな……。
それはただ私の自惚れかも知れない。でも、そう、思えてしまう。
「検査が終わり次第、刹那ちゃんにすぐに会えるようにしますです。それまで、辛抱して下さい…」
「…問題ありません」
私の心にあの方の笑顔ある限り、あの方がこの世におられる限り私は存在できる。
一刻も早くお傍にいたいという想いは…プログラムの私としては出過ぎた想いとは分ってるけども。
「…こんなこと言ったら、また怒られそう」
「ふぇ?」
早くあなたに会いたい
早く、刹那様に…
我が主のお傍に……
「ん?」
「刹那?」
不意に見上げた夜空は、いつもよりか、儚く綺麗に思えた。
「…君にも、見えていたらいいのにね」
「は?」
「ううん、なーんでもない。ほら、湯冷めしちゃうよ!」
「わわわっと!?」
分ってるよセシリア。
必ず、迎えに行く。
―――君の主であり、家族でもある私がね…
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